絆とアイデンティティ マンガに見る日本人の生き方について

(東海大学 開発工学部 講義 レポート)

98 課題論文 時代とマンガについて

「現代版 封神演義についての考察」

 

 

はじめに

有名な古典文学とは、しばしば漫画化されます。

そのようなものを読むなら、原作または原典を読め、という人も数多いでしょう。

確かに活字ならではの表現、その時代背景や歴史、知識や思想等は、元を読んだ方がよい。

しかしだからといって漫画で描かれたものは、まったく読む必要がないのだろうか。

このような古典ジャンルの作品を描くにあたって、自分の作品として仕上げる為に漫画家はその元をじっくり読み研究しているものである。そして古典という、長い時間をかけて評価の決まった書物のおもしろさを認識したうえで自分の作品へと描き上げる。それはなぜか。漫画でしか表現できないところ、また時代にあった表現への挑戦があるからだと考える。

その国、時代の言葉で書かれた原典、翻訳された原作、そして漫画、これらの作品はすべて独立しており、読み手の解釈はもちろん、それぞれ書き手の解釈が異なるので、こっちを読んだ方がいい、ということはないと私は考えます。

それを、踏まえて現在、週間少年ジャンプ連載中、中国古典の漫画版「封神演義」はどのように時代を反映しているか、検討していこうと思う。

 

 1 集英社刊 「藤崎竜」著  現代版「封神演義」の考察

物語の舞台は、紀元前1500年頃の古代中国、当時、中国を支配していた商殷の命数がつき、次ぎの王朝である周へと時代が移ろうとしていた。王朝の移り変わりは天命であり、徳を失った王家が治める王朝は次ぎの王朝へとって変わられると考えられている。

その殷の王、紂王の行いが事の発端となる。高位の仙人、女@・娘々の神像を詣でた紂王は、神殿に着くと、その壁に一首を書いた「梨花は雨を帯び嫣艶を競い 芍薬は煙を籠めて媚粧を騁せる その妖しい美しき姿 つれ回りて長く君主に侍らさん」

これが女@・娘々の逆鱗に触れ、配下の三妖に商の滅亡を早めよと密命する。これにより穏やかな統治を行っていた紂王の人生と、歴史が狂ってしまう。

こうした地上で混乱が続く一方で、仙界では姜子牙に下山して商周易姓革命を助けろという命が下され、この戦いで命を落とした人間、仙人、道士を神として封じ、神界を創設する「封神計画」の遂行も、任されるのである。

このように、「封神演義」には原作があるが、話全体の流れは同じものの、漫画版には原作にはないエピソードがだいぶ入っており、キャラクターの性格もかなり違う。この辺りが現代的と解釈すべきだろう。

つまり日常的エピソードや、原作にはないキャラクターの裏話、例えば李靖、姜子牙VSBAのエピソード等といった、従来の重苦しい雰囲気を取り除き、ややパロディー要素の強い作品へと仕上がっている。これにより原作を知らない人も、大きな意味での、「分析し研究された原典」が数々生んだバリエーションの一つとして楽しめるのである。

週間少年ジャンプ読者の大半が元の話を知らないだろう。

彼らは姜子牙とBA等の、キャラクターの、出会いの違いや、朝歌や西岐の王宮のような楼が殷の時代になかったとか、瓦葺きの屋根がすでに登場している等の、その時代の建築様式違いは、然程気にしないのである。

「ドラゴンボール」や「幽遊白書」に代表されるように、自分の生き方、美学を貫き通し、戦いによって、意思の疎通をしあうキャラクターがいることが重要なのである。なによりこれは連載漫画なのだ。物語り全体の一貫性や整合性も大事だが、その回その回が面白くなくては、読み手ははなれていくのだ。つまり現代の子供または大人達のニーズに応えなくてはならないのです。

冒頭で書いたように確かに活字ならではの表現、その時代背景や歴史、知識や思想等は、元を読んだ方がいいでしょう。しかし古典とは一般に知的レベル的に難しく、読みづらい物です、よって、古典、古典といって、活字のみを必要以上に強調するのは、人類の知的初期段階の物を担ぎまわる、時代錯誤であり、事大主義にも似た傾向にあると考える。なぜなら自分の偏狭な知識の領土を、自慢して他を寄せ付けない、という類のものだからである。

時代にあった表現、現代の読者のニーズに応えるもの、わかりやすく、より面白く、そのような時代の概念が固い古典の世界を包み込んでいったのだと考える。

漫画にしても古典にしても「封神演義」唯一の解釈・読み等はない、いくつもの可能性を読んでいくことが、読者に許された楽しみなのである。

 

参考文献

 

集英社刊  藤崎竜 著 「封神演義」

講談社文庫 許仲琳編 安能勉 訳 「封神演義」上

講談社文庫 許仲琳編 安能勉 訳 「封神演義」中

講談社文庫 許仲琳編 安能勉 訳 「封神演義」下

光栄    許仲琳編 「封神演義 1」蟲惑の妖女編

光栄    シブサワ・コウ編 「歴史人物笑史 爆笑!封神演義」

データハウス アおい果実&スタジオゴセシケ 「封神演義の秘密」